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第三回:『CAEとAIの組み合わせ』CAEとAIの組合わせの建付け

​ CAEとAIの組み合わせの三回シリーズで解説します。第三回目では、CAEとAIの組合わせの建付けについてお話します。

1.はじめに

前回の第2回コラムでは、CAE(Computer Aided Engineering)とAI(前回の記事では機械学習のこと)の違いについて考えました。今回は、最適化の枠組みの中で、CAEとAIの組合せについて考えてみましょう。最適化については、本技術コラムシリーズでも何度も取り上げられています[1]が、良い結果が得られる条件を探索すること、と言うことができます。この“探索”では、試行を何度も繰り返しながらより良い条件を探しますが、最適化アルゴリズムを用いることで効率的に探索する(=より少ない試行回数でより良い条件を見つける)ことができます。最適化アルゴリズムも一般的にはAIに含まれます。

本コラムでは、図1のように、人による最適化(Human-based optimization)に対して、最適化アルゴリズム、CAE、機械学習をそれぞれ組み合わせた4種類の最適化のスキームを順に見ていきます。“No free lunch”という有名な格言のとおり、どのような問題に対しても有効な万能な最適化方法はありませんので、人による最適化も含めて、この5種類のスキームはいずれかが他よりも常に優れているという関係ではないことをはじめに頭に入れておきましょう。問題や状況に応じて、適切な選択ができるよう、それぞれのスキームの特徴を見ていきましょう。

最適化アルゴリズム、CAE、機械学習を組み合わせた最適化スキーム

2.人による最適化(Human-based optimization)

図2に人による最適化のフローチャートを示します。はじめに、実験・評価を行います。顕微鏡で観察しているイラストを載せていますが、ここで言う「実験・評価」は、実空間でのリアルな行為です。製造業では実際の製品開発・製造につながる試験に相当しますし、大学の実験室では、実験行為そのものに相当します。得られた結果をデータに追加し、最適化ループの終了判定を行います。終了判定の基準は、実験回数、実験期間、性能目標達成など様々ですが、再び実験を行うと判定した場合は、次の実験条件を決めることになります。

人による最適化では、人が次の実験条件を決めます。現場の熟練者が過去の経験や知見をもとに決める場合もあるでしょうし、実験結果を分析して皆で議論して次の条件を決める場合もあるでしょう。このような人による最適化は、熟練者が暗黙的に有している数値化・定式化されていない知識をも活用できることや、議論で得られた方針が的を射ていた場合はスムーズに最適化が進むなど、有効な場合もあります。一方で、属人的になりやすい、再現性が低い、意思決定に時間がかかる、などのデメリットも考えられます。

図2 人による最適化のフローチャート

3.最適化アルゴリズムによる最適化(Real-based optimization)

図3に最適化アルゴリズムによる最適化のフローチャートを示します。図2で人が決めていた次の実験条件を、最適化アルゴリズムによって決定します。最適化アルゴリズムには、進化的アルゴリズム(遺伝的アルゴリズムなど)、ベイズ最適化、勾配法、実験計画法やランダム探索など、様々な方法があります。目的や使える情報、可能な実験回数、計算に要する時間などを考慮して、適した方法を選択する必要がありますが、共通して次のメリットがあります。1)意思決定が速い、2)明確なアルゴリズム(方針・ルール・基準など)に基づく、3)人が介在しないため、自動化に向く、4)アルゴリズムが問題と噛み合った場合は効率的に最適化できる。一方で、問題と噛み合わない場合は非効率になることもある、目的関数や制約の適切な定式化が必要、といったデメリットもあります。

図3 最適化アルゴリズムによる最適化のフローチャート

4.CAEを用いた最適化(CAE-based optimization)

ここまでの最適化では、最適化ループのたびに、実際の実験・評価を行っていました。実験・評価が短時間で終わる場合は良いですが、製品の試作などを行う場合は、数か月を要してしまうこともあります。また、時間に加えて、実際の実験・評価には、費用・人手などのコストもかかります。そこで、実際の実験・評価をCAEに置き換えます。計算コストが非常に高いCAE計算も世の中にはありますが、多くの場合では、実際の実験・評価と比較すると、時間・費用・人手のコストを抑えることができます。加えてCAEでは、内部の状態も得られるというメリットがあります。例えば、実際の実験・評価では、外観検査による破壊の有無による評価しかできない対象に対して、CAEではプロセス中の内部応力といった実際の測定が難しい量を最適化の目的関数に用いることもできます。

一方で、CAEと実際の実験・評価結果との間には誤差があることには注意が必要です。最終目的は、実際の系で良い条件を見つけることで、CAEで良い条件を見つけることではありません。したがって、CAEの結果と実際の実験・評価結果の間に大きな違いがある場合は、CAEによる最適化は意味がなくなってしまいます。したがって、いわゆるデータ同化によって、CAEと実際の実験・評価結果の誤差を小さくすることは、CAEによる最適化において非常に重要です。

図4 CAEを用いた最適化のフローチャート

5.機械学習を用いた最適化(ML-based optimization)

図5に機械学習を用いた最適化のフローチャートを示します。図4では、実際の実験・評価をCAEに置き換えましたが、ここでは機械学習モデルに置き換えます。CAEの場合と同様に、機械学習モデルの予測は実際の実験・評価と比較すると、格段に高速・低コストですので、最適化のコストを抑えることができます。またCAEと比較しても、予測は圧倒的に高速・低計算コストです。

一方で、高精度な機械学習モデルを作成するためには、ある程度の量の実験データ数が必要となります。したがって場合によっては、図2の実際の実験・評価データを用いた最適化において、良い条件を得るために必要であった実験・評価回数以上の実験データ数が必要になることもあります。しかし、機械学習モデルを作成することのメリットは、ひとたびモデルを作成してしまえば、繰り返し使えるということで、目的関数や制約が変わった場合も一から実験データを取り直す必要はありません。また、すでに過去の実験データが多く存在する場合は、それらのデータを用いて機械学習モデルを作成することもできます。

図5 機械学習を用いた最適化のフローチャート

6.CAEと機械学習の組合せを用いた最適化(CAE-ML-based optimization)

最後に、CAEと機械学習の組合せを用いた最適化を説明します(図6)。上で見たように、CAEを用いた最適化には様々なメリットがありましたが、弱点の一つは計算に時間がかかることです。実際の実験・評価と比較すると高速であるとはいえ、短くても数分、長くて数時間~数日と、詳細な計算になればなるほど計算時間がかかってしまいます。またたとえ1回の計算時間が短かったとしても、最適化ループのたびにこの計算時間を要してしまいますので、最適化全体では非常に長時間を要する場合もあります。そこで、CAEで作成した大量データを用いて機械学習モデルを作成することで、非常に高速に最適化を行うことができます。CAEによる教師データ作成には多くの計算を要しますが、前回の第2回コラムでも紹介したように、このデータ作成は並列化することができますので、効率的に短時間で作成することもできます。

このスキームの注意点は、実際の実験・評価を、CAE、機械学習モデルと2回置き換えるため、2重の誤差が乗ることです。実際の実験・評価とCAEの間の誤差はデータ同化によって、CAEと機械学習モデルの間の誤差はデータ数の増加や機械学習の改善によって、それぞれ最小化する必要があります。

図6 CAEと機械学習の組合せを用いた最適化のフローチャート

7.まとめ

今回のコラムでは、最適化の枠組みの中で、最適化アルゴリズム、CAE、機械学習の組合せについて、5種類のスキームを考えました。これらの組合せは一見すると複雑ですが、人による最適化フローを基礎として、どの部分を最適化アルゴリズム、CAE、機械学習モデルに置き換えているかを考えると全体の見通しが良くなります。ただし、最適化スキームは多層的ですので、この分類のいずれかに必ず当てはまるということではありません。見方によって異なる場合もあります。例えば、ベイズ最適化は、ブラックボックス最適化手法と捉えれば、最適化アルゴリズムになりますが、毎回の次の実験条件を決める内部過程を考えると、ガウス過程回帰を機械学習に用いて何らかのアルゴリズムで獲得関数を最適化していると考えることができます。

また冒頭でも述べましたが、これらの方法はいずれかの方法が他よりも常に優れているという関係ではなく、最適化の目的や置かれている状況に応じて適切に選択することが重要です。また、1回の最適化の過程で、いずれかの方法に固定する必要もありません。例えば、著者らの事例[2]では、半導体成膜条件の最適化において、ベイズ最適化による次の実験条件とエンジニア提案の次の実験条件とをうまく組合せることで、少ない実験回数で非常に良好な結果を与える条件を得ることができました。このように、柔軟な発想で最適化スキームを設計することも大切です。

本コラムの内容は拙著「AI開発力を鍛える!機械学習と最適化による問題解決講座」(翔泳社、2025年)の一部をもとに、再執筆したものです。詳しくは同書をご覧ください。

[1] 時間がかかる解析の効果を短時間で出すためのAI活用法 第一回:ものづくりと最適化、https://p--wcqcq9nnj7.re-cotta.com/sp/eng-dx/product/pseven/column/tech_column-04.html
[2] Keiichi Osada, Kentaro Kutsukake, Jun Yamamoto, Shigeo Yamashita, Takashi Kodera, Yuta Nagai, Tomoyuki Horikawa, Kota Matsui, Ichiro Takeuchi, Toru Ujihara, “Adaptive Bayesian optimization for epitaxial growth of Si thin films under various constraints”, Materials Today Communications 25, 2020, 101538.

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著者情報
名古屋大学 未来材料・システム研究所 准教授 沓掛 健太朗 様

名古屋大学未来材料・システム研究所准教授。産業技術総合研究所先端半導体研究センタークロスアポイントメントフェロー。理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。応用物理学会インフォマティクス応用研究会代表。アイクリスタル株式会社技術顧問。一般社団法人製造業AI普及協会理事。東北大学金属材料研究所助教、名古屋大学未来社会創造機構特任講師、理化学研究所革新知能統合研究センター研究員などを経て2024年より現職。専門は結晶工学と応用情報科学。趣味はマラソンと日本城めぐり。