ハイブリッドクラウド・AI時代に必要な「マルチクラウド接続」とは?―データセンターに求められる閉域×低遅延なコネクティビティ
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近年のクラウドコンピューティングの普及に伴い、企業のITインフラやアプリケーションをクラウド上に移行する動きが加速しています。業務の効率化や迅速なサービス展開を目的に、クラウド活用は今や多くの企業にとって当たり前の選択肢となりました。
そうした中で注目されているのが、複数のクラウドサービスを組み合わせて活用する「マルチクラウド」という考え方です。本記事では、マルチクラウドとは何かという基本から、ハイブリッドクラウドとの違い、メリット・デメリット、実践時のポイントまでをわかりやすく解説します。
【監修者】出口太郎

SCSK株式会社 ITインフラサービス事業グループ
クラウド事業本部 マルチクラウドインテグレーション部 二課 課長
【経歴】
通信事業者でインターネット基盤(NOC運用)に従事し、データセンターおよびWebサービスの企画・開発・運営を担当。
建設・教育業界を中心にクラウド移行プロジェクトのPM/アーキテクトとしてAWS基盤の設計・構築を多数リードし、10年以上にわたりクラウド移行支援およびAWS導入コンサルティングに携わる。
目次
マルチクラウドは、複数のクラウド事業者が提供するパブリッククラウドサービスを、目的に応じて組み合わせて利用する運用形態を指します。例えば、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudといった複数のサービスを併用するケースが挙げられます。重要なのは、単に複数のクラウドを使っている状態ではなく、それぞれのサービスの強みを活かすために「戦略的に」使い分けるという点です。
現代のビジネス環境では、市場の変化に素早く対応し、新しいサービスを次々と生み出すことが求められています。そのため、ITインフラにも俊敏性や柔軟性が欠かせません。マルチクラウドは、特定のベンダーに縛られることなく、最新の技術や最適なサービスを自由に選択できるため、企業のイノベーションを加速させる強力な手段として注目されています。

マルチクラウドを学ぶ上で、多くの人が混同しやすいのが「ハイブリッドクラウド」という言葉です。両者は似ているようで、その構成や目的は異なります。この違いを理解することが、自社の要件に適したインフラを選択するために重要なポイントとなります。
マルチクラウドの構成要素は、あくまで「複数のパブリッククラウド」です。その主な目的は、各クラウドの優れた機能を適材適所で活用したり、特定の事業者への依存を避けたりする(ベンダーロックインの回避)ことにあります。
一方、ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドだけでなく、「プライベートクラウド」や「オンプレミス」を組み合わせて利用する形態です。重要なデータや厳格な管理が求められるシステムはプライベートクラウドあるいはオンプレミスで保持しつつ、拡張性やスピード感が求められる処理はパブリッククラウドを活用するといった使い分けが可能です。

マルチクラウド戦略を採用することで、企業は単一のクラウドでは得られない、さまざまなビジネス上のメリットを期待できます。ここでは、代表的な4つのメリットについて、具体的な事例を交えながら解説します。
特定のクラウド事業者に完全に依存してしまうと、将来的な料金の値上げやサービス内容の変更に柔軟に対応できなくなるリスクがあります。マルチクラウド環境では、複数の選択肢を持つことで、このようなベンダーロックインのリスクを低減できます。
最適なサービスを最適化したコストで利用しやすくなり、事業者に対する価格交渉や見直しも行いやすくなります。
システムを一つのクラウドだけで運用している場合、そのクラウドにトラブルが発生すると、サービス全体が止まってしまう可能性があります。マルチクラウドでは、仮にあるクラウド事業者で大規模な障害が発生しても、別のクラウドでサービスを継続できるため、適切に冗長化・切り替え設計を行えば、システム全体の可用性が向上します。
これは事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要であり、金融サービス企業などでは、災害復旧(DR)用の待機システムをAzureで構築するなど、メイン環境とDR環境を異なるクラウドに分ける設計が取られています。
クラウド事業者には、それぞれ得意分野があります。
例えば、小売業者が既存のECサイト(AWS)と、顧客データ分析基盤(Google CloudのBigQuery)を連携させることで、より高度な商品レコメンデーションを実現する、といった活用が可能です。これにより、ビジネスの競争力を高め、イノベーションを加速させることができます。
SCSKでは、AWS・Azure・Google Cloud・OCIなど主要クラウドの導入から運用、活用までをワンストップで支援するオールインワンサービスを提供しています。まず現状アセスメントを通じて、お客様の業務やシステム特性、目的・状況を丁寧に把握。その上で、各クラウドの強みを最大限に活かした最適な組み合わせをご提案し、設計から構築、運用まで一貫してサポートします。
詳細は、各リンクおよび、下記バナーからご覧ください。
※AWSのサービスについては、下記の記事もぜひご覧ください!
AWS Summit Japan 2025イベントレポート~生成AIアプリ開発の内製化を支える最新のクラウド基盤~
大規模な自然災害や地政学的なリスクは、特定の国・地域に影響が偏る場合があります。システムを地理的に離れた複数のクラウドリージョンに分散させることで、こうしたリスクの影響を最小限に抑えることができます。
例えば、グローバルにサービスを展開するSaaS企業では、各地域のデータ保護規制やデータ主権の要件、利用可能なクラウドサービスの違いを踏まえ、北米ではAWS、欧州ではAzureといったように、地域ごとに異なるクラウド事業者を選択する場合があります。これにより、地域ごとの法規制やサービス要件に対応しながら、利用者に安定したサービスを提供するための選択肢を広げることができます。

マルチクラウドは多くのメリットをもたらす一方で、導入や運用には注意すべき課題も存在します。しかし、これらの課題は適切なツールやアプローチを用いることで管理しやすくなり軽減可能となります。ここでは、主要な4つの課題とその解決策をセットで解説します。
マルチクラウド環境では、クラウドごとに管理画面やAPI、料金体系が異なるため、運用管理やコスト管理が複雑化しやすくなります。リソース管理や障害時の原因特定に手間がかかるだけでなく、クラウド間のデータ転送料金(エグレス料金)など、見落とされやすいコストが想定外の負担となることもあります。
こうした課題に対しては、構成管理の自動化や統合管理ツール、コスト可視化ツールの活用が有効です。運用面とコスト面を横断的に管理することで、マルチクラウド全体の最適化が図れます。
マルチクラウド環境では、クラウドごとにセキュリティ設定や責任共有モデルが異なるため、全体で一貫したポリシーを適用・維持することが難しくなります。その結果、設定漏れや管理の抜け漏れから、意図しないセキュリティリスクが生じる可能性があります。
こうした課題には、CASBやCSPMなどのセキュリティツールを活用し、複数クラウドの設定状況を横断的に可視化・管理することが有効です。あわせてSSOを導入し、ユーザーアクセスを一元管理することで、運用負荷とリスクの低減につながります。
あらゆるクラウドの利用状況の可視化や制御を実現する「Netskope」
AWS、Azure、Google Cloudなど、複数のクラウドプラットフォームに精通したエンジニアは非常に希少です。特定のクラウドに知識が偏りやすく、チーム全体で幅広いスキルセットを維持することが、人材確保・育成における大きな課題となります。
社内リソースだけでは対応が難しい場合は、外部の専門企業と連携し、運用の一部を委託することも有効な選択肢です。
ハイブリッドクラウドを含む広義のマルチクラウド環境で難しくなるのは、分散そのものよりも、分散後にシステム同士をどう接続するかという点です。クラウド間の往復通信が増えると、遅延が積み重なり、処理時間の増大やレスポンス低下といった性能問題が表面化します。さらに、閉域接続や監査要件が加わることで設計は複雑化し、クラウドが増えるほど接続構成は把握しづらくなります。こうした接続のスパゲッティ化は、クラウド間通信の設計が不適切な場合に運用負荷や障害対応時間の増大を招く要因となります。
上記のように、マルチクラウド環境では、クラウドや拠点が増えるたびに個別で接続を構築していくと、接続経路が増え続け、構成や運用の把握が難しくなりがちです。こうした課題への一つの解決策として注目されているのが、接続を個別に増やすのではなく、接続点を共通の基盤に集約する「ハブ型接続」という考え方です。
SCSKのマルチクラウド接続サービス「SCNX」は、このハブ型接続を採用し、オンプレミスやデータセンター、複数のパブリッククラウドを一つの接続基盤に集約します。クラウド同士を1対1で直接つなぐのではなく、共通基盤を経由させることで、構成の複雑化を抑えつつ、接続先の追加や変更にも柔軟に対応できます。その結果、低遅延かつ安定した通信を維持しながら、マルチクラウド環境をシンプルに管理しやすくなります。
※「SCNX」については、下記の記事もぜひご覧ください!
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これまで解説してきた内容を踏まえ、マルチクラウド戦略を成功させるための実践的なアプローチをまとめます。
マルチクラウド戦略の第一歩は、自社のビジネス要件とクラウド活用の目的を明確にすることです。コスト削減や業務効率化、新たな価値創出など、クラウドに何を期待するのかを具体的に整理し、その達成手段としてマルチクラウドが本当に適しているのかを見極める必要があります。
その際には、経営層を含む関係者間でゴールやロードマップを共有し、共通認識を持って進めることが重要です。
次に、自社のビジネス要件に適したクラウドサービスを選定します。 クラウドの処理能力や、要求されるパフォーマンス、セキュリティ、コンプライアンスなどを考慮しつつ、最適なクラウドの組み合わせを決定しましょう。
例えば、本番はAWS、分析はGoogle Cloud、Microsoft 365連携はAzureを活用する、といった組み合わせもよいでしょう。また、特定のクラウドに依存しないよう、クラウド間の移行性や相互運用性にも配慮が必要です。
クラウドの構成が決まったら、複数のクラウドを横断したガバナンスとセキュリティ方針を整理します。マルチクラウドでは管理方式やセキュリティ機能がクラウドごとに異なるため、アクセス制御やデータ保護、ツール統合・自動化の考え方を含めた共通ルールを定めておくことが重要です。
あわせて、データの保管場所や暗号化、ログ管理など、法規制やコンプライアンス要件への対応方針も明確にします。こうした前提を整えておくことで、マルチクラウド環境を安全かつ安定的に運用しやすくなります。
Netskopeは、あらゆるユーザ環境(オフィス、自宅、外出先)からあらゆるリソース(社内システム、クラウド、IaaS、Webサイト)へ安心安全な利用を支援するSASE(Secure Access Service Edge)ソリューションです。
などで、マルチクラウドのセキュリティ向上を実現します。
管理体制とセキュリティの方針が固まったら、マルチクラウドへの移行計画を立案し、実行に移します。まずは、移行対象とするアプリケーションやデータを洗い出し、優先順位を付けます。一度にすべてを移行するのではなく、影響の少ない環境から段階的に進めることで、リスクを抑えながら移行できます。
また、切り替え時の停止時間を最小限に抑えるため、ロールバック手順も含めて事前に計画しておくことが重要です。
マルチクラウドへの移行後は、安定して運用できる体制を整えることが重要です。複数のクラウド環境を一元的に監視・管理できるツールを導入し、日常の運用フローや障害対応手順をあらかじめ整理・標準化しておくことで、運用負荷の増大や属人化を防ぎやすくなります。
また、運用は一度整えて終わりではありません。クラウド技術やビジネス要件は常に変化するため、運用状況を定期的に見直し、改善を重ねていくことが欠かせません。継続的な調整を前提とした運用が、マルチクラウドを長く有効に活用するポイントです。

この記事では、マルチクラウドの基本的な概念からメリット、課題、実践までを網羅的に解説しました。マルチクラウドは、もはや単なる技術トレンドではなく、適切に設計し導入すれば、ビジネスの成長や変革を支える有効な選択肢になり得ます。
しかし、その目的は導入することではありません。自社のビジネス目標を達成するために、どのクラウドを、どのように組み合わせるのが最適なのか。本記事で得た知識が、皆さまの戦略的なクラウド活用を検討する上で、確かな一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。

A. マルチクラウドとは、複数のパブリッククラウドサービスを目的に応じて使い分ける運用形態のことです。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなど、それぞれ特長の異なるクラウドを組み合わせて利用することで、柔軟性や可用性を高めたり、特定ベンダーへの依存を避けたりすることができます。
A. マルチクラウドの主なメリットは、ベンダーロックインを回避できることや、障害時にも別のクラウドでサービスを継続しやすいこと、そして用途に応じて各クラウドの強みを適材適所で活かせることです。グローバル展開やBCP対策の面でも有効です。
一方で、クラウドごとに管理方法や料金体系、セキュリティ設定が異なるため、運用・コスト管理やセキュリティ統制が複雑になりやすいというデメリットがあります。そのため、統合管理ツールや明確な運用ルールを前提とした設計が欠かせません。
A. マルチクラウドは、複数のパブリッククラウド同士を組み合わせて利用する構成です。一方、ハイブリッドクラウドは、オンプレミス環境やプライベートクラウドなどの専用環境と、パブリッククラウドを連携して使う構成を指します。
マルチクラウドは、各クラウドの機能やコストの違いを活かした使い分けに向いており、ハイブリッドクラウドは、既存資産や厳格なデータ管理要件を活かしながらクラウドを活用したい場合に適しています。目的や前提条件によって、適した構成は異なります。