マテリアリティ見直しに関する有識者との意見交換(2026年3月)

薗田 綾子 氏、SCSK奥原、SCSK清水

株式会社クレアン
代表取締役会長

薗田 綾子 氏

SCSK株式会社 執行役員 常務
企画・サステナ推進・広報グループ長

奥原 隆之

SCSK株式会社 業務役員
サステナビリティ推進・広報本部長

清水 恵美

(所属、役職は2026年3月時点のもの)

持続的な成長に向け、あらためて問い直すSCSKのマテリアリティ

経営環境が激変する中、社会課題も変化していることを踏まえ、SCSKグループは、更なる持続的な成長に向け、2026年度にマテリアリティを見直しました。
今回の見直しにあたって、当社が捉えた社会環境および社会課題の変化、ならびに中長期的に社会から求められる期待や役割をテーマとして、2026年3月、サステナビリティ分野の有識者である株式会社クレアン 代表取締役会長の薗田綾子氏をお迎えし、意見交換を実施しました。

マテリアリティと「グランドデザイン2030」を起点に、バックキャストでありたい姿を描く

清水
SCSKグループは、事業活動で社会課題を自ら解決することに加えて、お客様が取り組む社会課題解決を支援すること、一緒に解決することも含め、社会に役立つ、社会に求められ続ける企業を目指しています。 現在のマテリアリティを策定した2019年度以降、外部環境や社会課題の重要度が変化していることを踏まえ、マテリアリティの見直しを行いました。外部環境の変化を事業機会と捉え、SCSKグループの強みを活かして、社会価値と経済価値の両方を創出する「成長戦略としてのサステナビリティ経営」を推進しています。
奥原
マテリアリティ見直しにあたっては、2026年度から始動する中期経営計画の策定と並行して整理を進めてきました。5年間にわたる中期経営計画は、「グランドデザイン2030」の達成に向け、ありたい姿から逆算する発想を取り入れており、今回見直したマテリアリティも中期経営計画および「グランドデザイン2030」に深く結びついています。
薗田氏
IT業界の変化スピードは極めて速く、3年先、5年先を予測するのは簡単ではありません。だからこそ、長期的視点からのバックキャストは重要といえるでしょう。「世界がどう変わるか」以上に、「自分たちがどうありたいのか」という意志が問われていると感じます。
清水
当社がこれまでマテリアリティとして掲げてきた「豊かな未来社会」「安心・安全な社会」「いきいきと活躍できる社会」という3つの社会像は、今回の見直しにおいても変わらない軸だと認識しています。これらの社会像の実現に向けて、テクノロジーについても、単なる利便性の追求にとどまらず、人や社会に寄り添い、その力によって持続的に価値を創出していくことが重要であると考えています。
奥原
ITは「空気」のような存在であり、普段は意識される機会が少ない一方で、それが失われれば社会や企業に大きな影響を及ぼします。今回の見直しでは、こうしたITの本質的な価値をあらためて捉え直しました。一つは、社会やお客様の成長を支える基盤として、この「空気」を安定的に提供し続けることです。もう一つは、AIなどの新技術を活用することで、これまでの限界を超えて生産性を高め、そこで生まれた余力をまた新たな価値創造へと投じていくことです。そうした循環をお客様と共につくっていく未来を描いています。
薗田氏
2024年度のネットワンシステムズ(株)との経営統合も大きな意味を持つのではないでしょうか。売上規模の拡大はもちろん、提供できる価値の幅も大きく広がりました。この規模とポテンシャルを踏まえ、どのような存在感を示していくのかが問われています。
奥原
今回のネットワンシステムズ(株)との統合によって、社会を支えるITの神経系ともいえるネットワーク分野における高度な技術力がSCSKグループに加わり、レジリエンスや安心・安全への対応力が一層高まりました。またこの度、住友商事の完全子会社となったことを契機に、当社自身が事業主体として社会課題に直接向き合うという、新たな立ち位置も明確になりつつあります。
薗田氏
上場を廃止し完全子会社となったことは、短期的な市場の評価に左右されず、中長期に軸足を置いた経営に専念するチャンスでもありますね。これまで以上にSCSKらしさを発揮し、オリジナリティで勝負できる環境が整ったのではと思います。

社会環境の変化を事業機会へ。SCSKが今向き合うべき重点課題とは

清水
マテリアリティ見直しのプロセスでは、ダブルマテリアリティの原則を重視し、事業を通じた社会課題の解決(事業機会)と社会・環境の変化が経営基盤に与える影響の双方の観点から、当社にとっての社会課題の重要度を評価しました。環境面では、これまで掲げてきた脱炭素社会に加え、サーキュラーエコノミーや生物多様性、自然資本の保全といった観点を新たに取り入れています。また、AIの普及に伴いデータセンターの電力需要が高まる中、自社サービスにおける環境負荷の低減にも注目しています。
SCSK株式会社 業務役員 清水
薗田氏
世界は今、エネルギー危機を目前に、再生可能エネルギーへの転換を本格的に進めるべき段階に入っています。日本は地熱や太陽光、風力などのポテンシャルは高いものの、政策面の制約などから十分に活用できておらず、長期視点での大胆なGXが求められています。
奥原
日本は省エネ技術では世界をリードしてきましたが、GXという点では世界的な潮流から後れを取ってきたように感じます。国も舵を切り始めており、当社としても大きな事業機会と捉えています。
薗田氏
サーキュラーエコノミーという概念は、特に近年社会全体に広く浸透してきました。ネイチャーポジティブとも親和性が高く、単に資源を循環させるということにとどまらず、再生可能エネルギーの活用も含め、自然の循環をベースに考え、資源の利用から再生に至るまでを持続可能な形で設計していくという、より包括的な意味合いを持つ考え方です。マテリアリティでは、こうした視点をより前面に打ち出してもよいと思います。
奥原
環境と並び、AIをはじめとするデジタル技術の進展も、当社の事業を取り巻く極めて大きな変化です。AIは社会を大きく発展させる可能性を持つ一方で、常に最適な答えを出すとは限らず、使い方によってはリスクにもなり得ます。そうした両面性を踏まえ、プロとして適切に向き合っていく必要があると考えています。
薗田氏
AIのイノベーション創出力には目を見張るものがありますね。一方で、リスクとチャンスが表裏一体であるからこそ、一段と重要性が高まるのが情報セキュリティだと思います。また、それらを使いこなす人材育成も問われています。高度デジタル人材は、単に技術だけでなく、AIに関する倫理観やリスクへの理解も備えている必要があり、一朝一夕には育ちません。だからこそ、子どもの頃からのリテラシー教育が重要になってきます。自治体などと連携し、次世代のAI教育にもSCSKの知見を還元していくといったことも有効なのかもしれません。
清水
そうした人材育成の観点も踏まえながら、AI活用についても、今後私たちが具体的にどう取り組んでいくべきか整理していく必要があると感じています。他にも、当社として注視すべき外部環境の変化があれば、ぜひご意見を伺いたいと思います。
薗田氏
日本では地域の衰退が深刻になる中、地方創生という視点も期待されます。背景には、人口減少に加え、地方ほどジェンダー問題が根強く女性の活躍が進みにくい現状もあります。さらに、医療や介護、交通といった社会インフラの課題も顕在化しています。今求められるのは、いわば「社会のインフラを支えるOS」そのものを転換する変革であり、その先にウェルビーイングな未来があると考えています。
奥原
日本では富や機会が首都圏に集中しており、地方におけるウェルビーイングという観点は、当社としても非常に重要と捉えています。当社はこれまで「ニアショア」として地方に開発拠点を設けてきましたが、システム開発は場所に依存せず、ネットワークがあれば地方にいながら、都市と同様に高い価値を生み出すことができます。単に労働力を広域で確保するというのではなく、仕事や高度デジタル人材を地方に再分配することで、地域の活性化にもつなげていきたいと考えています。そうして地域で育った人材が自身の地元でDXに取り組み、課題を解決していくといった好循環を生み出していきたいです。

SCSKの強みを起点に、取り組みを進化させていく

薗田氏
現在のマテリアリティ案を拝見すると、非常に網羅的に整理されていますが、その分やや総花的に見える点が気になります。SCSKならではの特徴や強みがどこにあるのか、もう少し際立たせられるとよいと思います。例えば地方創生のテーマであれば、地域課題を解決するワンストップ・ソリューションを提供するといった打ち出し方も有効です。
奥原
ご指摘の通り、ITは空気のような存在として社会を支えているからこそ、向き合うべき領域が自ずと広がり、総花的に見えてしまう側面はあるかもしれません。一方で、デジタルを活かした課題解決の「実現力」は当社ならではの強みです。今後は当社の強みを軸に、単なるシステム開発を超えた強い事業の柱を育て、SCSKらしい尖った価値を打ち出していきたいと考えています。例えばサプライチェーンマネジメントの領域では、製造業のお客様に対し、サプライチェーン上の課題の発見から解決策の提案、実行、価値創出までを一気通貫で支えるイメージです。
薗田氏
IT業界は本質的に、社会課題をチャンスに変えていける業界であり、重要な視点だと思います。さまざまな課題が山積する中、「ここに注力する」といった旗を明確に掲げることが期待されます。
株式会社クレアン 代表取締役会長 薗田 綾子氏
奥原
その点では、大企業に加えて、中小企業のお客様にどのように貢献していくかも重視しています。これまで当社は個々のお客様に寄り添ったサービスを提供してきた結果、どうしても大企業向けが中心となっていました。しかし、DXやAI活用が最も必要なのは、むしろ取り残されがちな中小企業かもしれません。そうした層にも、サブスクリプション型など導入しやすい形でデジタルの力を届けていくことが大切です。
薗田氏
個別対応を超えて、プラットフォームをつくる発想が求められているということですね。
奥原
その通りです。例えばGX領域でも、大企業向けのGHGの排出量の見える化サービスはすでに過当競争となる一方、人材や資金に制約のある中小企業にとっては、排出量の把握や削減は依然としてハードルが高いのが実情です。こうしたホワイトスペースへの対応として、中小企業でも活用しやすいクラウドサービスの提供などに取り組んでいます。
薗田氏
非常に意義ある取り組みだと思います。SCSKはそうした挑戦を続ける優れた会社でありながら、マテリアリティ案の表現はやや謙虚すぎる印象もあります。御社のポテンシャルを踏まえると、もう少し攻めの姿勢を打ち出してもよいのではないでしょうか。マテリアリティに含まれる、「知的財産の保護」についても、単に守るだけではなく、新たな知的財産を生み出し、拡大していくという視点があってもよいと思います。ネットワンシステムズ(株)との統合によって、多様な知見や技術が掛け合わさる環境が整った今だからこそ、知財をめぐるシナジーへの期待も高まっています。事業との結びつきを明確にしながら、各マテリアリティの関係性を整理し、変革への意志を示していくことが求められます。
奥原
ありがとうございます。知財についてはまさにご指摘の通りだと思います。取り組みの中身を進化させるだけでなく、その価値の見せ方についても一層真剣に考えていく必要があると感じました。さらに当社としては、GX領域についてもより攻めの姿勢を明確にしていきたいです。
薗田氏
もう一点、ウェルビーイングという切り口にもあらためて着目していただきたいと思います。個人のウェルビーイングにとどまらず、それが組織や社会にどう波及していくかという視点が重要です。お客様やサプライヤーまで含めた「ウェルビーイングなバリューチェーン」という捉え方も可能ですし、プラネタリー・ウェルビーイングとして地球全体を視野に入れることもできます。お客様のウェルビーイングへの貢献が、売上拡大やロイヤルティ向上にまでつながることを示せれば、戦略との接続もより強固になります。SCSKはこれまでもウェルビーイングに先進的に取り組んできた企業だからこそ、社会に先駆けて中核的な軸として打ち出すこともできるのではと思います。今後、重要性がさらに高まるテーマであり、差別化にもつながっていくでしょう。

伴走から一歩先へ、お客様へのさらなる価値提供に向けて

奥原
マテリアリティの見直しにあたり、改めて「自分たちは何者か」を定義し直す必要があると感じています。これまでSCSKは、主役であるお客様の課題解決をお手伝いする黒子としての立場であり、先ほどお話しいただいたような、お客様のウェルビーイングまで踏み込んで関与する存在ではなかったのではないかと思います。しかし昨年度、お客様に実施したアンケートが、その認識を見直す契機となりました。本当に困っていることや、パートナーに求めていることを掘り下げてお伺いしたところ、多くの真剣な声が集まりました。そこから見えてきたのは、お客様自身も答えを持っておらず、何が課題でどう取り組むべきか模索しているという現実でした。
薗田氏
AIの急速な進展や地政学リスクなど、事業環境の不確実性が増していることを考えると、そうした反応は十分理解できます。
奥原
だからこそ、単に伴走するだけでは不十分であり、もう一歩踏み込んだ関係構築が求められていると痛感しました。リスクもベネフィットも共有する、いわば運命共同体のような関係です。お客様のウェルビーイングが私たちの価値となり、その結果として当社自身のウェルビーイングにもつながっていく。そうした姿を目指していきたいと考えています。
薗田氏
まさに「夢ある未来を、共に創る」パートナーシップですね。その意味では、同じ価値観を共有し、共創できるお客様を、SCSKが選んでいくという発想も問われるのかもしれません。
SCSK株式会社 執行役員 常務 奥原
奥原
最終的に行き着くのは人材の問題だと感じました。課題や答え自体が明確ではないケースが増える中、従来通りお客様の要望に従い、高品質なサービスを着実に提供できればよいのではなく、課題を共に見つけ、答えを導き出し、迅速に実装してビジネスとして成立させる――このサイクルをアジャイルに回せる人材が不可欠です。私たちが掲げる高度デジタル人材の定義も、そうした方向へと変わっていく必要があります。
薗田氏
答えのない領域への挑戦を適切に評価する仕組みが重要になりますね。2年、3年といった中長期の時間軸で成果を捉えることや、エンゲージメント指標と組み合わせた評価なども鍵となります。
奥原
会社としての価値観を変えていく必要もあると思います。答えが明確な仕事は効率的に収益を上げられる一方、答えのない領域では試行錯誤が不可欠であり、成果の見通しが立ちにくいため短期的な視点ではリスクと映る側面もあります。しかし、経営を含めてそうした領域への挑戦を前向きに捉えていく姿勢が不可欠です。

経営理念「夢ある未来を、共に創る」の実践に向けて、マテリアリティを羅針盤に

薗田氏
今後に向けては、策定したマテリアリティをいかに社内浸透させていくかが問われます。マテリアリティを事業そのものと結びつけ、自部門としてどのようなインパクトを生み出すのかを具体的に考えることが重要でしょう。各事業部に対し、複数のマテリアリティを組み合わせたロジックモデルの作成を促すのも有効です。そのうえでKPIやKGIを設定すれば、取り組みから生まれる成果が見えやすくなります。
奥原
社員は必ずしも会社全体を俯瞰して業務をしているわけではなく、自身の担当領域に注力し日々の業務をしています。中期経営計画やマテリアリティに対して、自分の仕事がどのように貢献しているのかが具体的に見えなければ、自分事として捉えにくいのだと思います。個々の役割が全体の目標にどのようにつながっていくかを、ロジックツリーのような形で示すことは有効だと思います。
薗田氏
少し別の視点からは、今回のネットワンシステムズ(株)との統合が、マテリアリティを発展させる契機ともなるのではないかと感じています。SCSKのマテリアリティは経営理念や中期経営計画と結びついた全体のストーリー性が特徴なのに対し、ネットワンシステムズ(株)は各マテリアリティに対するKPIや施策が非常に具体的に整理されています。統合により双方の強みを組み合わせることで、より立体的なマテリアリティへと高めていけるのではないでしょうか。
清水
おっしゃる通りです。今回の統合を契機に双方の強みを生かし、マテリアリティの実効性を高めていければと考えています。
薗田氏
社会的価値と経済的価値をどのように結びつけていくか、そのストーリー設計が鍵になります。最終的には、「マテリアリティ」という言葉を意識しなくても、「これが自分たちの事業にとって重要なテーマだ」と自然に認識される状態が望ましいです。そうなって初めて、マテリアリティが経営や事業に真に組み込まれたと言えるのではないでしょうか。
奥原
当社では、経営理念「夢ある未来を、共に創る」の実践としてマテリアリティを位置づけています。経営理念だけでは日々の業務における判断軸として抽象的になりがちな中、マテリアリティを具体的な判断基準とすることで、自らの行動が正しい方向にあるかを測る羅針盤としていきたいと考えています。本日いただいたさまざまな示唆を踏まえ、マテリアリティの捉え方や表現を参考にさせて頂きます。本日はありがとうございました。
株式会社クレアン 代表取締役会長 薗田 綾子氏
薗田 綾子(そのだ あやこ)

株式会社クレアン 代表取締役会長

Profile

1988年、株式会社クレアンを設立。これまでに、多数の企業のサステナビリティ経営コンサルティングやサステナビリティ・統合報告書の企画制作を支援。
公益財団法人みらいRITA代表理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、三菱地所株式会社 社外取締役、一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUE理事、NPO法人日本サステナブル投資フォーラム理事、内閣府 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム 幹事、また次世代への教育活動として、大学院大学至善館 特任教授などを務める。